第88話 割れたコップ
北海道の留萌市に1年ほど住んでいた事がありました。
その時の友人の話なんですが、看護士をしている奥さんが夜勤で不在だったので、アパートの居間で一人で酒を飲んでいてテーブルに寄りかかりながらウトウトしていたのだそうです。
ふと、電球(白熱電灯)がゆらゆらと言うかふわふわと言うか、そんな感じで明るくなったり暗くなったりしている事に気がついて目が覚め、「電球が切れるのかな? 接触が悪いのかな?」と思って起き上がると、今まで自分が背にしていた玄関の内側に、和服姿の背の低いおばあちゃんが前で両手を上下に組んで(巴形とでも言うんですかね、片手が上からでもう一方が下から、揃えた4本の指を上下に組んで・・・よく、和服の人がお腹の前で手を組むときにやるポーズです)立っていたのだそうです。
玄関は鍵をかけていましたし、一瞬「だれ?このおばあちゃん?」と思ったけれど、不思議と怖くは無かったので、そのまま半分寝ぼけて半分酔っ払って眺めていたら、スーッと薄くなって消えていったんだそうです。
翌日、当直帰りの奥さんと前の晩の出来事を話していて、「そう言えば、しばらく神棚の水を取り替えてないなぁ・・・」と、神棚の水を取り替えようと椅子に上がって神棚を見ると、なんと神棚のコップが真上からナイフで切ったかのように真っ二つに割れていて、しかもその両側ともが倒れずに斜めに立っている状態だったという事なんです。
この状態自体が不思議なんですが、底の丸いコップが真ん中から二つに切られると、底はそれぞれ半月状態になるわけで、その半月の丸い方を軸にして斜めに立てるという事は、何かで支えなければほぼ不可能だと思うんです。
(二つに割れていないコップでも斜めにして立てるというのは不可能ですから)
彼はそのコップの状態を「開いたチューリップみたいに・・・」と言っていましたが、夜中に玄関に立っていた和服のおばあちゃんの事やコップがナイフで切ったかのように縦に真っ二つに割れていた事よりも、その割れたコップが斜めに立ったままだった事の方が非常に不思議だったそうです。
(いや、実は彼は建築設計が仕事だったので・・・)